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「作ること」

を超える試み

荒木夏実

1月5日 荒木夏実氏、展覧会会場にて

  美術大学の学生や新人アーティストの作品を見たりその説明を聞くとき、あまりにも一方的な表現に辟易することがしばしばある。もちろん、アーティストの「作りたい」という熱意は尊重したいし、経験の浅さや未熟さを責めるつもりもない。問題なのは、見られることへの意識がなく、鑑賞者が置き去りにされていること。そのような状況において、作品は狭い世界にとどまってしまいがちだ。

 今回東京藝術大学絵画科油画学部の2年生は、進級展という発表の場を使って、鑑賞者を意識したユニークな試みを行った。個々人の作品をばらばらに見せるのではなく、キュレーションチームを組んでテーマを設定し、全体を一つの展覧会に仕上げたのだ。

 「あの動脈とこの静脈−時と空間の旅−」と題されたこの展覧会は、「旅」をテーマに、普段はともに制作者である仲間たちが、キュレーターとアーティストという役割を担いながら完成させたプロジェクトである。効果的な作品の組み合わせや緩やかなストーリーを考慮した展示が部屋ごとに展開されていて興味をそそる。ちょっとしたコンテクストやきっかけがあるだけで、鑑賞者はそこを起点に自身の想像力を働かせることができるものだ。途中、作家が入れてくれるハーブティーを飲みながら団欒できるカフェの作品があったが、展覧会の流れがあったからこそ、自然で説得力のある空間としてうまく機能していたのだと思う。

 キュレーションという仕事を通して、学生たちは作品の分析、解釈、空間把握、作品同士の関係、鑑賞者との相互作用というさまざまな要素を学んだはずだ。知性と客観性、抑制を要求されるその作業は、普段の制作とは異なる角度からアートを捉えるきっかけになったのではないか。作るだけではない、見ること、見られること、考えること、関わることを通じて、作品を外部へと開いていく可能性を感じさせる展覧会であった。

荒木夏実(あらき・なつみ)

 

森美術館キュレーター。慶應義塾大学文学部卒業、英国レスター大学ミュージアム・スタディーズ修了。1994年より三鷹市芸術文化振興財団キュレーター、2003年より現職。2010年より慶應義塾大学非常勤講師。主な展覧会は「ストーリーテラーズ:アートが紡ぐ物語」(2005)、「六本木クロッシング2007:未来への脈動」(2007)、「小谷元彦展:幽体の知覚」(2010)、「LOVE:アートにみる愛のかたち」(2013)、「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」(2014)、「ディン・Q・レ展:明日への記憶」(2015)、「六本木クロッシング2016:僕の身体、あなたの声」(2016)など。ソウル市美術館での「City_net Asia 2009」では共同キュレーターを務める。「ゴー・ビトゥイーンズ展」で第26回倫雅美術奨励賞(美術評論部門)、第10回西洋美術振興財団賞を受賞。